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”主訴”が語られなかったら?(山﨑, 2021)

初期面接で”主訴”の内容↓方針について話し合うことは、患者にとっての切迫した問題を明らかにするだけでなく、心理職が自らの力量に照らして、「その人にいかに貢献しうるか」という点を吟味するうえでも重要といえる。しかし冒頭でも述べたように、問題を局地化・定式化することに比重を置きすぎて患者との情動レベルの交流が希薄になり、ラポールを樹立することが拙速に進められてしまうと、それは援助実践の成否に大きな影響を及ぼしかねない。言葉では容易に表現し得ないことを胸の内に抱えている患者の多くは、見えない涙を流し、笑顔の鎧をまといながら、仮初めの自分の姿を呈している。したがって、患者と共に”主訴”を形にしていく作業も大切な援助プロセスの一コマと理解し、心理職の人間性によって裏打ちされた営為でなければならない。(p.35)