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子どもの宇宙(河合, 1987)

 親からみると、子どもの考えていること、していることがまったく不可解に見え、学校の成績が急に悪くなってきたり、よく話をしてきた子が極端に無口になってしまったりする。親にとっては随分心配なことであるが、これは子どもの成長にとって必要なことであり、私はこれを成長過程における「トンネル」とか「さなぎ」の状態などという言い方で説明している。何かが開ける前に「トンネル」を経過することが必要なのである。…(中略)…このような「さなぎ」の時期を経てこそ、人間は以前と異なる段階にすすむことができる。そのとき、両親はその「さなぎ」の殻の役割とするものとして、あくまで子どもを外界からの強い刺激にさらされぬように守ってやらねばならない。子どもを見守って待っていると、新しい展開が生じる。

このように言っても、人間は蝶と異なるから、毛虫ーさなぎー蝶と一直線の変化があって終わり、というわけにはゆかない。さなぎの期間も、長い人もあれば短い人もある。さなぎの体験も一度ではすまぬ人もある。これは人によって異なるので、一般論を述べることは難しい。しかし、一般的に言って、十歳くらいのところでトンネルを経過する子は相当いるし、そのときに何ともなくとも、思春期にはほとんどの子どもがトンネルを体験する。親たちはこのことをよく知っておかねばならない。(pp.93-4)